フェンシングは片手剣を用い、刺突を主体とする速攻性の高い剣術である。
対して剣道は刀を両手で握り、全方面対応型の思想が強い。
これは西洋剣術が主に決闘用に実践された歴史に対し、日本では江戸時代から明治維新にかけて乱戦を含む想定で剣術を培った差であろう。
勝負は一対一の戦いに純化したフェンシングに分があると言えよう。
考察は決闘が前提であり、相手を死傷ないし戦闘不能に至らしめる事を目的とする。
真剣を用いた戦いにおいて、速さは何にも勝る優位性となる。先に負傷を与えてしまえば、その一撃で決着がつかずとも、以後の優位が確立してしまうからだ。
日本刀にも突き技は存在するが、反りのある形状からして直剣と比して容易に放てず、また体ごと飛び込むような技はあまり使われない。速さではただ真っ直ぐ突く西洋剣術が強い。
ただし、フェンシングの優位は僅かであろう。返し技が存在するため、フェンシングも迂闊に飛び込む事はできない。
「後の先」で比較すれば、剣道優位であると思われる。
刀を両手で握ることで、技の多様さに遥かな差がつくからだ。
これは片手でバットを握って打席に立つ事を想像すれば、理解の助けになるだろう。
ほんの軽い動作でフェンシングの刺突をいなし、小手を切り落とす事もできる。
その他大きな要素として、フェンシングのエペではベルト下を狙う攻撃も許容されている。対して剣道では下半身への攻撃は想定されていない。剣道側はこの不利に対応出来れば互角の勝負にもちこめる。
後は精神力の戦い、実力の勝負になる。
基本的に、フェンシング側は如何に攻め、剣道側は如何に守るかという戦いになるだろう。
下手に攻めれば返し技の餌食となる。攻めあぐねれば、剣道側に「先」を許し、優位を失う。
長期戦となった場合、精神的には剣道がやや有利か。
一概には言えないものの、ルール上は剣道の方が長期戦に慣れやすい。5分3本勝負の剣道に対して3分3ピリオド15本先取のフェンシングの方が試合時間は長い。しかし1本あたりの時間では剣道が長く、また延長戦となった場合、フェンシングは1分1本先取だが、剣道は時間無制限とする大会が多い。
1本の価値が重い剣道は、比してより実戦に近い精神であると言える。
以上より、この条件下での勝負は6・4から7・3でフェンシング有利と結論する。
剣技としては速さに優るフェンシングが主導権を握ることになるからだ。
ただし、前提を厳しく条件づけた事で、結果的にフェンシングに有利となったことは特に記す。
多少でも防具の着用を認めた場合、評価は大きく変わるだろう。
防刃シャツ程度でも直剣による刺突は有効性を大きく損なうし、まして鎧など着用すれば、フェンシングは加えて「速さ」の有利をも失う。
日本人として、また剣道を嗜んだ者として、剣道有利の結論も残しておきたいところである。
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